中高年の筋力トレーニングは有効か

中高年の筋力トレーニングは有効か」

綜合臨牀
「診断の指針・治療の指針」

中高年の筋力トレーニングは有効か
Effects of resistance training on muscle strength in elderly people

筑波大学体育科学系・準研究員 安田俊広
Yasuda Toshihiro
筑波大学体育科学系・教授 勝田 茂
Katsuta Shigeru

Key word : 中高年,筋力トレーニング,筋萎縮,筋線維サイズ,筋線維数

 一般に筋力トレーニングは筋力の増加を目的として行われるものであり,競技者のトレーニング手段としては日常的に行われているものである.しかしながら,このトレーニングが中高年者にも有効であるかどうかという問題に対しては,従来から疑問視されてきたようである.それは第一に,生物学的事象として筋力が年々衰えていく中高年者に対して効果があるかどうか定かではないと言うこと,第二に骨格筋だけでなく関節や心臓にかかる負担が大きく怪我や疾病を引き起こす可能性があるという理由によるものである.このような考え方は間違いではないが,最近の高齢化のすすんだ社会状勢に必ずしも適合しなくなったことも事実である.中高年と一口に言ってもその健康度や体力水準には著しい個人差があり,身体に負担がかかるのでやめておいた方がいい,という考えは一部の中高年者にのみあてはまる話で,むしろ大部分の中高年の人たちは若齢者と同様に筋力トレーニングに耐えることが出来るようである.
 80歳代の高齢者において脚筋力パワーは歩行速度や階段登り速度といった日常生活動作の能力と高い相関関係があることから,中高年においても筋力トレーニングによって筋力アップが生じるのであれば,このような日常生活動作をより安全に行うことが出来るようになるだろう.そればかりでなく筋機能の改善は活動的で生き甲斐のある生活を営むための体力的基盤となるであろう.本稿では,まず加齢に伴う骨格筋の変化について述べ,その変化に対して筋力トレーニングがどのような影響を与えるのかについて最近の研究結果を紹介し,中高年の筋力トレーニングの有効性について探っていきたい.
本題にはいる前に,本稿では40歳以上を中年者,60歳以上を高年者として扱うことをお断りしておく.

加齢に伴う筋力の低下
 ヒトの筋力は25-30歳頃をピークに減少を始める.その程度は45歳くらいまでは緩やかであるが,60歳頃から急激に低下する.この筋力低下は上肢の筋よりも下肢の筋において顕著である.これは高齢者では上肢よりも下肢の方が,日常生活ではあまり使用されないためであると考えられている.筋力低下を引き起こす要因には様々なものがあるが,加齢に伴う筋の萎縮による影響が最も大きい.筋の萎縮は筋線維サイズの変化と筋線維数の減少のいずれか,あるいはその両方によって引き起こされる.この2つの要因の中年期と高年期の変化を以下に述べる.
 筋線維サイズは30〜35歳でピークに達し,その後徐々に減少するが,中年期ではほとんど変化せず,高年齢(60歳以降)になって著しく減少する.筋線維は大きく分けると,収縮速度が速く疲労しやすい速筋型線維と収縮速度は遅いが疲労しにくい遅筋型線維に分類することができるが,加齢に伴う筋線維の萎縮は速筋型筋線維で顕著に生じる.
 次に筋線維数の減少であるが,屍体から得た外側広筋全筋の筋線維数の変化を詳細に検討した研究によると,中年期の筋線維数の減少は比較的緩やかで,25歳をピークとして65歳までのおよそ40年間で25%減少する.その後の減少は急速に起こり,わずか15年程度の間にさらに25%の低下(ピーク時の50%)を示す.筋線維タイプ別に筋線維数の減少を見てみると,速筋型筋線維の選択的消失を報告したものもあれば,両タイプの筋線維が同程度に消失することを報告したものもあり一致した見解が得られていない.

筋力トレーニングの影響
 Frontera et al. (1988)は60-72歳の高齢者を対象に週3回,12週間の筋力トレーニングを行った結果,大腿部筋横断面積が11.4%増加すること,この時の最大膝屈曲筋力および膝伸展筋力がそれぞれ170%,227%増加したことを報告している(図).これらは若齢者に見られる値と同等の値であり,高齢者のトレーニングに対する適応能力は若齢者と同程度であることを示している.筋線維横断面積をタイプ別で見てみると,遅筋型筋線維に比べ,速筋型筋線維の肥大が顕著であり,若齢者の適応と同様に速筋線維の選択的肥大が生じている.筋力トレーニングに対する適応に性差はなく,高齢女性(平均69歳)でも高齢男性や若年者と同様に筋力増加が生じるようである.
 以上のことから,高齢者においても若齢者と同様の筋機能改善が認められることは明らかである.しかしながら,実際,筋力トレーニングを行うにあたって,トレーニング負荷の設定には注意が必要である.なぜなら高齢者は若齢者と比べて,運動後の筋損傷の程度が大きいことが報告されており,トレーニングの強度や頻度は高齢者ひとりひとりの能力に照らし合わせて慎重に設定することが望まれる.

まとめ
 加齢とともに筋の萎縮が生じ筋力の低下が生じることは生物学的特性として避けることはできない.しかしながら,中高年になっても骨格筋は若齢者と同程度のトレーニングに対する適応能力を備えている.特に筋機能は60歳以降になって急激に衰えてくるので,それまでにトレーニングを積んでおくことにより老年期に顕著に現れる筋の形態的,機能的能力の低下を防ぎ,元気な老人になるための基礎的体力をつけることが出来るであろう.最後に,活動的な生活から得られる精神的充足度といった付加的価値も考えあわせれば,「中高年の筋力トレーニングは有効である」と結論づけて良いだろう.
文献
Frontera, W. R., Meredith, C. N., O'reilly, K. P., Knuttgen, H. G. and Evans, W. J. (1988). Strength conditioning in older men: skeletal muscle hypertrophy and improved function. J. Appl. Physiol., 64, 1038-1044.