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<リアリティを追求するゲーム業界>
みなさん、「エキサイトピンポン」という家庭用テレビゲームをご存じですか?発売と同時に人気沸騰、売り切れ店続出で生産が需要に追いつかない状況だそうです。このゲームは指先でコントローラーを操作する従来のテレビゲームとは違い、実際にテレビ画面の前でラケットを振ることによって画面の相手と卓球の試合をするところに特徴があり、そのリアルなスポーツ感覚と全身運動が爆発的な人気を集めているのだと思われます。私もこれまでテレビゲームにはほとんど興味がなかったのですが、ある機会にたまたまこのゲームをやってみたらつい夢中になってしまい、次の日には玩具店に買いに行ったほどです。(結局売り切れのため購入できませんでしたが・・)
このようなゲームの傾向は街のゲームセンターにも見られます。ダンスのステップを踏むものや、バイクダウンヒル、スノーボード、フィッシングからサッカーまで様々あります。一昔前まではせいぜいカーレースやバイクくらいだったのですが、最近のものはどんどんリアリティを追求してきているようです。例えばフィッシィングなんかは魚が食いついた感じが手元にリアルに伝わってくるし、バイクダウンヒルやダンスなんかは実際にペダルを漕いだり汗だくになって踊ったりしてるわけです。このままいくとそのうちサッカーやバレーボールなんかでも実際のボールを使ってブラジル代表キーパー相手にPKしたりロシアのブロック相手にスパイクしたりというシミュレーションゲームが登場するかも知れません。そんなにリアリティを追求するんだったらいっそ本物のスポーツをすればいいじゃないかとも思えるのですが、これらのシミュレーションゲームは「その場で」「すぐに」「一番面白いところを」楽しめるところが本物のスポーツよりもとっつきやすいと言えるのではないでしょうか。つまり実際に釣りをしようと思ったら道具やエサを準備して朝早起きして1日出かけても1匹も釣れないことを覚悟しなくてはいけないし、他のスポーツでもある程度ゲームを楽しめるところまで上達するにはつまらない基礎練習を繰り返ししなければならず、楽しいところだけというわけにはとてもいかない。まがりなりにも体育・スポーツに関わる仕事をしている私でさえ、実際にジャージに着替えてグラウンドで90分サッカーをするのはちょっと気が引けますが、もし目の前にサッカーゴールとボール、そしてゴールキーパーがいてくれたら、ちょっと1発シュートチャレンジしてみたいなと思うことでしょう。
<ある大学生のレポートから>
「・・正直言えば、私は、小中高でやってきた体育は大嫌いでした。なぜかというと、小中高の体育は、能力の差別化をされているような気がして仕方がありませんでした。どの実技をやっても、運動能力の高い人は、能力の極めて低い私のような存在は疎ましく思われていました。時々、周囲の人に怒鳴り声をあげられるようなこともありました。そのような中で私は、体育教育に対する不信感を抱いていました。・・中略・・この大学で行われる健康運動科学実習は、私のような、とんでもない体育オンチでも苦痛を感じることのない授業だと思います。それは、レクリェーションスポーツという位置付けのもとに行われていることにあります。つまり、能力の高度化ばかりを目指すのではなく、初心者にも抵抗なく出来るような水準で授業が行われていることです。なぜ、小中高の体育はこのようなレクリェーションとしての位置付けで授業が出来ないのか、私には疑問でなりません。」
これは、福島大学のある学生が1年間の体育授業を受けて最後に書いたレポートの一部分です。ここには、小中高の体育授業の中で、上手に出来る出来ないで差別化され、体育嫌いから運動嫌いにさせられてきた過去が述べられています。もちろん小中高までの体育と大学での体育では趣旨が異なるため単純に比較は出来ませんが、運動が得意でない子供は運動能力を比較され、あまりにも上達ばかりを求められるとプレッシャーを感じ始め、そのうち運動すること自体が嫌になってしまいかねません。
<スポーツ階層構造とレクリェーションスポーツ>
また、運動部活動に代表される従来のスポーツ団体や集団は「上手が中心」「上手が偉い」、だから「ひたすら上手を目指す」という階層構造になっていて、「新しくスポーツを始めてみよう」「ちょっと運動してみたい」という人達にとって敷居が高く感じられているのではないでしょうか。だから先の学生もそういった階層意識のないレクリェーションスポーツによって初めて運動に心を開くことが出来たのだと考えられます。現に福島大学の体育会系と呼ばれる運動部に所属している学生は実は少数派で、その一方、同好会と呼ばれるサークルには多くの学生が集まっている状況がここ数年続いています。その同好会の中には高校時代、厳しい運動部活動に参加していた優秀なプレイヤーが少なからず含まれています。最近の若者のスノーボード人気とスキー離れもおそらく同様で、スノーボードは歴史が浅い分だけスキーのような階層構造(ピラミッド)が出来ておらず、とにかく楽しく滑ろうという自由な雰囲気が受け入れられていると思われます。(ただスノーボードもハーフパイプとなると技術レベルによるピラミッドが厳然と存在し、敷居が高くて初級者が気軽に入れない雰囲気がすでに出来上がっていますが・・)
<手軽なスポーツの環境整備が必要>
スポーツに近づいていくゲーム業界とレクリェーションへ移行していくスポーツの実態。この2つの歩み寄り現象が意味するものは何か?それは世の中の多くの人々が、「もっと手軽なスポーツ」「もっと気軽にスポーツ」を楽しみたいと思っているということではないでしょうか。人間は動物である以上、運動を否定して生きていくことは出来ないでしょう。運動が得意であれ苦手であれ、体を動かしたいという欲求は誰にでもあるはずですから、そうした欲求をいつでも、どこでも受け入れられるような、敷居の低いスポーツ環境やスポーツ意識を確立していくことがこれからますます重要になっていくことでしょう。
もっと手軽なスポーツを!もっと気軽にスポーツを!
<研究室紹介>
福島大学教育学部にある私の研究室は「体育原理研究室」と言います。体育やスポーツについて原理的、哲学的に考察する領域です。哲学というと何だか小難しい事をじっと考え続けるイメージがあって、思いっきり体を動かす体育やスポーツのイメージと結びつかないかも知れませんが、なぜ体育が必要なのか、スポーツはどうあるべきかなどについて自分なりの考えを持っておくことはとても大事な事だと思っています。
ただ私自身、あまりにも抽象的な哲学は性に合わないので、なるべく現実的で具体的な問題についてちょっと
立ち止まって考えてみるというスタンスをとっています。授業やゼミでも、スポーツに関わる具体的な問題や事件について学生達とディスカッション形式で考察を深めています。また、運動やスポーツの話題から日常の些細な事まで、ふと思いついた私の考えを下記ホームページにて公開していますので、スポーツ哲学にちょっとでも興味を持たれた方は是非一度ご覧下さい。
「小川宏の発想辞典」
http://www2.educ.fukushima-u.ac.jp/~ogawa/hassou/index.html
<目次ピックアップ>
その15:スポーツカーはスポーツかぁ?
その19:リフトに乗るために滑る?
その38:動かした方が動かない
その39:弱いチームの方が満足?
その47:鬼ごっこの審判
その50:自分で自分をごまかせない
その59:褒め続けるって難しい・・
その60:子ザルの満足・・etc
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