特集◆「どうなる現代スポーツ」

大学からの発信で地域は変わる 〜福島大学スポーツユニオン〜          

黒須 充(福島大学教育学部)
「体育科教育」2003年1月号 


 <地域と大学をスポーツでつなぐ>
 
 大学は、研究、教育、地域貢献という3つの大きな使命を持っています。これらの使命は三位一体であり、互いに切り離すことはできません。とりわけ、地方の国立大学にあっては、これからの国立大学法人化を前に、地域への積極的な貢献が社会から要請されており、「地域貢献」は新生国立大学の命綱であるといっても過言ではありません。
 福島大学スポーツユニオンは、まさに、そうした期待に応えるべく、教育学部保健体育科の有志教官が中心となり、平成13年7月に設立されました。
 まず最初に取り組んだことは、「活動資金の確保」です。経済学部の下平尾教授と共に、県内各地の商工会議所を訪問し、活動趣旨への理解と資金協力をお願いしました。これまであまり接点のなかった経済界、産業界の多くの方々から、スポーツや地域づくりに対する幅広い意見や要望を伺うことができたことはとても新鮮で、今後の活動を考える上でも、大変有意義な経験となりました。こうして、多くの商工会議所から資金面でのバックアップをいただき、当面の活動資金の目途を立てることができました。
 次に取り組んだのは、「人の体制づくり」です。福島大学スポーツユニオンは、大学の教官だけではなく、学生や卒業生、さらには地元の教育、医療、民間企業など様々な分野の人材がスポーツをキーワードに集まり、組織されています。そこで、個々の研究や人的資源をコーディネートする人材(専任の事務局スタッフ)として、大学院生を雇用し、学生主体の組織「アシスタント・コーチャーズ・アソシエーション(ACA)」との二人三脚で事業を推進しようといった構想を描きました。つまり、学生が教官のお手伝いをするといった補助的な関係ではなく、学生も教官も共に会員の一人としてプロジェクトに関わるといったイメージです。
 第三に取り組んだのは、会員の確保および県や市町村、スポーツ関係団体、学校、企業等との連携プロジェクトの提案を含んだ「広報活動」です。正直なところ、立ち上げてはみたものの、ニーズがあるかどうかは全くの未知数であり、どこからも問い合わせがなかったらどうしようと心配していました。
 しかし、実際にふたを開けてみると、徐々に関心が寄せられるようになり、「自分たちの町ではこんなことをやりたいが、ノウハウがわからない。どうか力を貸して欲しい」といった相談や依頼を受けるようになりました。
 平成14年度の実績は、以下の通りであり、総額530万円の外的資金の獲得につながりました。
 ・富岡町との共同研究(300万円)
 ・二本松市との共同研究(160万円)
 ・県体育協会と広域スポーツセンターのホームページ作成委託(70万円)
 その中から、富岡町との共同研究についてご紹介させていただきます。


 <富岡町とスポーツユニオンの協定>
 
 平成14年3月5日、富岡町と福島大学スポーツユニオンとの間で協定式が行われ、住民の健康増進や町のスポーツ振興のために協力して取り組むことを確認しました。スポーツユニオンの本格始動となるこの事業を「アクティブスポーツライフプロジェクト」と名づけ、@健康の維持増進、A競技力の向上、B総合型地域スポーツクラブの創設といった3つの柱を中心に進めています。

1.健康の維持増進
 日常生活の中に運動を取り入れることで様々な生活習慣病を予防できることは、多くの人が認めていることでしょう。しかし、どのような運動をどれくらいの強度や頻度で行えばいいのかという情報は必ずしも正しく理解されているわけではないようです。そこで、富岡町の住民を対象として住民参加型の健康教室を開催し、実技と講義を通して健康の維持増進のための適切な運動方法について、学んでもらうことにしました。
 この健康教室では以下の3つの目標をたてました。
 @参加者が継続的な運動習慣を身に付けられるようにする。
 A運動実施者が明確な目標を持って運動を実践できるようにする。
 B結果的に医療費の削減を目指す。

 @の目標を達成するために、プログラムの中でリフレ富岡やグリーンフィールド富岡といった地域の運動施設を活用し、行政サービスとの連携を図りました。
 Aではプログラム実施前の体力や運動中の生体の反応を測定、フィードバックし、それに解説を加えることで、自分の体力を把握し、どのような運動が自分に適しているのかを理解してもらえるようにしました。
 そして今回は、国民健康保険加入者から参加者を募ることで、医療費のかかり方をおおまかに把握できるようにしました。
 現在40数名の参加者が集まり、週1回の教室を進めているところです。

2.競技力の向上
 日本記録保持者など、トップアスリートを何人も育てたノウハウを生かし、心・技・体にわたる一貫した指導体制や最新のトレーニング方法などを、町の指導者や選手たちに講習し、競技力の向上を図っています。
 (1)現状の分析と問題点の把握
 富岡町で行われている主たるスポーツ種目とその現在の競技力を多面的に調査し、問題点を把握しました。
 (2)目標の設定と達成戦略の確定
 心・技・体の各領域における改善すべき内容を吟味し、到達目標を設定した上で、達成のための方法論を構築するよう助言、指導しました。
 (3)指導者研修ゼミの実施
 のべ10回にわたる指導者研修ゼミを実施し、最新のトレーニング理論を講習しました。
 (4)技術欠点の分析と修正法の提示(運動の通信教育システム)
 個々の運動が撮影されたビデオを、コンピュータを利用した運動比較観察システムを使って分析し、具体的な修正法やアドバイスを添付して返信しています。

3.総合型地域スポーツクラブの創設
 平成14年度内の設立に向け、住民参加型のワークショップを10回開催し、その中で「富岡版総合型地域スポーツクラブ」の具体的な構想(組織体制、活動拠点とクラブハウス、会員の確保、魅力的なプログラム、資金調達、広報活動など)について話し合いを行いました。そこで得られた結論は、まず青少年のスポーツ活動を活性化するため、学校と地域の連携を促進し、次いで一般住民に参加を呼びかけ、前述の「健康増進」や「競技力の向上」を包含した組織に拡大しようといった構想です。
 また、平成15年度に予定されている「富岡町スポーツ振興基本計画」の策定に向け、町民のスポーツ活動実態調査の実施と分析、スポーツ関連団体の活動状況や町内の公共スポーツ施設の利用状況の把握と分析、中学校運動部活動の現状と問題点の整理などを行っています。


 <大学のイメージアップに貢献>
 
 学生や教官の活躍が大学のイメージを高め、大学のイメージが高まることによって、教官の研究の活性化や意欲的な学生が全国から集まるといった相乗効果(シナジー効果)を期待することができます。ここでは、地域で輝き、世界にはばたく学生の活躍を3つ紹介してみたいと思います。

○福島大学トラッククラブ(TC)
 現役の学生はもちろんのこと、本学陸上部の卒業生、そして小・中学生にも開かれたクラブです。小・中学生の会員は、現在80名を超え、なかには日本ジュニアオリンピックに出場する中学生も育ってきています。主な活動は、土曜日と日曜日に行われていますが、希望者に関しては水曜日の午後に大学生の練習にいっしょに参加する機会も提供しています。指導者は6名の卒業生、ちなみにヘッドコーチは、本誌「私にとってスポーツとは」の二瓶秀子さんです。
 次の写真は、よさこい高知国体成年女子四百メートル決勝で福島大勢4人が1位から4位を独占した写真です。こうした日本のトップランナーを間近に見ながら練習することによって一貫した指導体制が自然な形で整ってきています。

○木球の国際大会(国内初)の開催
 ゴルフに似た台湾生まれのニュースポーツ「木球」をはじめて日本に紹介したのは、本学行政社会学部の新谷崇一教官です。本年10月2日から4日まで福島市のあづま総合運動公園で第2回アジア学生木球選手権大会と第1回日本オープン木球大会が開催されました。6カ国から約220名の参加者が集まりましたが、本学の学生28名も、選手、審判員、通訳としてこの大会を支えました。

○NPO法人エフ・スポーツとのコラボレート
 福島市初の「総合型地域スポーツクラブ」エフ・スポーツに、ACAから指導者およびアシスタントマネジャーを派遣しています。10月からは部活引退後の中学3年生を対象としたフォローアップ・スクール(サッカー、バスケットボール、野球)を開催、アシスタントコーチとしても活躍しています。また、バレーボール、ハンドボールに関しては、地元の企業スポーツと連携した一貫した指導システムについてACAのメンバーを中心に現在考案中です。


 <大学におけるスポーツユニオンの位置づけ>
 
 このように福島大学では、地域に向け様々な形で幅広い活動を行っていますが、そうした地域連携を強力に推進する拠点として、平成13年4月、「地域創造支援センター」が発足されました。このセンターでは、「地域のニーズや要請を大学として受けとめ、それに組織的に応えることで、大学が地域の発展に積極的に役立つこと」を目的としており、スポーツユニオンは、その中の登録研究会の一つとして積極的な活動を展開しています。

 <まとめにかえて>
 
 研究の成果が教育現場に反映され、そこで蓄積されたノウハウが地域に還元され、地域で検証された実績がまた大学における研究や教育に生かされるといった好循環を生み出すことにつながります(図2参照)。スポーツユニオンは言わばそれぞれの島を橋でつなぐような存在です。
 大学の個性や自主性が問われる時代に入り、スポーツユニオンの役割はますます重要になっていくのではないかと考えています。

 福島大学スポーツユニオンへの期待                 

福島大学地域創造支援センター長  下平尾 勲

 大学の役割として最近重視されていることは、蓄積されてきた研究に加え、新たに研究の蓄積を行いつつ、学生に教育を施すと同時に、「知の資源」を地域に提供することである。地域貢献ということが重要となったが、その背景は何か。それは、地域をとりまく条件が複雑化し、深刻化してきたからである。@長期不況、A規制緩和、グローバル化、B地方分権、C少子高齢化、D情報化の進展など、地域を取り巻く緒条件、とくに、@環境・エネルギー問題、A高齢者の医療・福祉問題、B都市計画、C地域情報化などに見られるように、産業界や行政だけでも解決できず、産・官・民・学が力を結集して解決していかねばならない事柄が多くなったからである。こうして産業はもとより、行政、教育・文化、福祉・健康、環境、人々のくらしにいたるまで、大学の創造的な地域協力へのニーズが高まったのである。
 大学側においても、研究、教育と並んで地域貢献のための体制を確立する必要に迫られた。こうして平成14年4月省令施設として「福島大学地域創造支援センター」が設置された。大学は地域連携の窓口を設け、地域資料の管理、教官や研究のデータベースの整備などナレッジマネージメントを強化するとともに、フォーラム・シンポジウムの開催、産官民学の協力、公開学内研究会、登録研究会など大学マネージメントの道を歩みはじめた。
 地域貢献の精神は、@蓄積してきた大学の資源を広く地域に提供すること、A個々人の地域協力だけでなくチームワークとして地域貢献を行うこと、B地域から学び、それを大学における研究と教育に活用することにあるが、それをまず実行に移したのは、いうまでもなく、「福島大学スポーツユニオン」であった。行政や団体組織と協定を結び、地域における健康増進とスポーツ振興の体制づくりに精力的に活動を開始したのである。さらにまた、地域貢献を大学のマネージメントとして継続していくためには、@リーダーの養成、A事務局体制、B財源の確保が不可欠であったが、「福島大学スポーツユニオン」はそのための努力を行い、福島大学の地域貢献の嚆矢であるばかりか、福島大学の今後のあり方として新しいモデルを創造しつつあり、大学内外において注目され、大きな期待が寄せられているのである。
 これからのスポーツユニオンの活躍を大いに期待したい。