〜スポーツをキーワードに発信する福島大学の試み〜 
大学発信・「福島大学スポーツユニオン」


「学校体育」2002年 3月号
〜スポーツをキーワードに発信する福島大学の試み〜
大学発信・「福島大学スポーツユニオン」


1, 発信する授業

1)学生が企画したイベント「街なかビーチバレー」
 2001年8月、福島市街地のど真ん中にある多目的広場でビーチバレー大会が開催された。オフィスビルやデパート、専門店が建ち並び、ショッピングで行き交う人々や信号待ちのドライバーが、水着姿でボールを追いかけるプレイヤーの光景に目を奪われる。「街なかでビーチバレー?」というこの奇抜なアイディアに地方紙からラジオ、テレビ局まで地元マスコミがこぞって興味を示し取り上げた。建設会社に依頼し、トラック30台分の砂を夜中に運び込みアスファルトの広場に敷き詰めることで2日間だけのビーチバレーコートが出来上がった。
 これはテレビ局や民間会社が行ったイベントではない。企画から準備、運営に至るまで、福島大学教育学部の学生達が「スポーツ企画特講」という授業の一環として行ったイベントである。

2)実践から学ぶ授業
 全てはゼロから始まった。まずはイベントの企画というものをどのようにして立てればいいのか、企画書にはどんな内容を盛り込めばいいのか、どんな企画が受け入れられるのか、など分からないことばかりである。そこでテレビ局の事業担当者にお願いして、イベント企画の基本的な事について教えてもらい、それをふまえた上で学生達がそれぞれ企画を考えてくることになった。しかし、出てきた企画はどれもどこかで聞いたようなものばかり。日頃、与えられた課題をこなす事に慣れた学生達がこの授業でぶつかった最初の壁である。その後何度もディスカッションを重ねる中で「だったら市街地でビーチバレーやれないの?」「もしやれたら意外性があって面白い!」という発言から授業は一気に実現に向けて加速していく。
 そこから先の準備は分担作業になった。実際に広場に出かけていって有効面積を測定したり、広場の使い方について管理組合に交渉したり、参加チームを募り大会当日のスケジュール表作成や招待選手の交渉、新聞取材への対応など準備は多岐にわたった。中には当然、思った通りに進まないことや失敗もあった。建設会社に砂運搬費の見積もりをお願いするも、「企画の詳細が分からないと検討出来ない」と断られたり、スポンサーがなかなか見つからない等々、また警察署へのイベント実施許可願いの提出が遅れて警察の方々に指導を受けたりもした。授業担当者の不勉強甚だしき限りであるが、そうした失敗やつまずきから得られるものは多い。担当した学生達は一つ一つ課題をクリアしながら準備作業を進め、ついに学生の手によるイベント「街なかビーチバレー」は無事、成功裡に終えることができた。

3)授業の成果と波及効果
 この授業を通して学生達は、生きた知識と実践力を身につけることが出来たと考えている。何もないところから一つの事業を成し遂げることの大変さとそれを乗り越え達成できた充実感。教室で講義を聴くだけでは決して学ぶことが出来ない部分である。また、学生が地域に積極的に関わることによる地域側のメリットも大きい。地域は学生のパワーをもらって活性化を目指し、学生は地域に飛び込みそこから社会を学ぶ。目的達成のために一生懸命になって走り回っている学生達と地域の人たちがコミュニケーションをとることで、「勉強もせずに遊んでばっかり」といった一般的な大学生のイメージも払拭できるだろう。そんな学生達の活躍を新聞で知った他の町から「今度はうちの夏祭りにも力を貸してほしい」といった依頼が舞い込んできた。

2, 変わる国立大学

1)「福島大学スポーツユニオン」発足
 2001年7月、学生達のスポーツイベント開催とほぼ時を同じくして、福島大学体育科教官有志を中心として「福島大学スポーツユニオン」という組織を立ち上げた。これは、福島大学が有するスポーツの資源(研究成果や人的資源)を有効に活用し、福島県のスポーツ振興や地域振興に貢献することを目的とする組織である。
 福島大学陸上部ではこの年、2名の選手が世界陸上選手権(カナダ)に参加し、中でも3年生の池田久美子は女子走り幅跳びで日本人初の決勝進出を果たすなど全国的にも傑出した成果を上げている。また、総合型地域スポーツクラブの育成支援を行うNPO法人「クラブネッツ」理事長である黒須充助教授は全国各地をクラブ育成支援のために飛び回るなど、福島大学はスポーツに関して数多くの資源を持ち、発信している。そうした個々の成果や実績を、スポーツをキーワードとして集結し、地域貢献に結びつけていこうとする試みが「福島大学スポーツユニオン」構想である。

2)スポーツユニオンの事業
ユニオンの具体的な事業内容は以下の6つである。
1, 行政、企業等に対し、スポーツや健康に関する具体的な問題提起や政策提言を行う。
2, 総合型地域スポーツクラブ育成・定着を支援する。
3, 一般者の健康増進や競技者のパフォーマンス改善を目的として体力測定やプログラムの開発を行う。また、医療費削減などの経済的効果についても調査報告する。
4, 競技力向上のための一貫指導システム構築支援やトレーニング法に関する情報提供を行う。
5, プレイヤーやコーチを対象としたスポーツセミナー、また一般市民(子供から高齢者まで)を対象とした健康講座やスポーツ教室を開催する。
6, ホームページによる情報提供やメーリングリストによる情報交換を行う。

3)スポーツを通した地域貢献のためのスポーツユニオン
 地域一般の人にとってこれまでの大学はどちらかというと、「何か難しそうなことを研究している」「ちょっと近づきにくい」といったイメージが強く、大学生を含めて地域との結びつきがやや希薄で独立(孤立?)した存在であったのではないだろうか。しかし現在の国立大学、とりわけ地方国立大はこれからの独立行政法人化の波を前に、地域への積極的貢献が社会から要請されている。また地方大学の存在意義は地域と密接に関わり、地域に研究成果を還元していくことにあるとも言える。福島大学スポーツユニオンはこのような地域貢献を、スポーツや健康の分野について組織的に行う窓口として組織された。

4)スポーツユニオンの会員
 「でもいくら地域貢献が大事だからといって、これだけの事業を大学の教員が通常の授業や研究、大学内の会議や雑務をこなしながらやりきれるのだろうか?」と思われるかも知れない。しかしユニオンは大学教官のみによる組織ではない。この福島大学スポーツユニオンの会員は、運営にかかわる正会員と準会員(学生)、ユニオンの趣旨に賛同する賛助会員と特別会員(協賛団体)からなっており、会員数は現在100名を越えている。理事を務める保健体育科教官をはじめ、医師、商工会議所会頭、中・高教員など様々な分野の人材がスポーツをキーワードに集まってきており、また保健体育科や運動部に所属する学生達も実践的学習の場として捉え、準会員も着実に増えつつある状況である。準会員である学生達はすでにユニオンの事業、運営に参画している。冒頭の「街なかビーチバレー」はユニオンも共催という形で参加し、当日の会場作りや運営、ゲーム審判などの仕事にはバレーボール部の学生会員が携わった。また、ユニオンのホームページ作成及び更新などはパソコンの得意な学生会員が管理運営に携わっており、ユニオン事業に参画する中でそれぞれが実践力を養っている。

5)スポーツユニオンへの依頼状況
 現在、福島県内のある町から「ユニオンと覚え書きを交わし、町のスポーツ振興を進めたい」といった依頼や、福島市内の総合運動公園から、「ユニオンと提携し、福島県のスポーツ発信拠点としてPRしたいので協力してほしい」、また県からは「県職員の健康に運動が大事なことを具体的に証明してほしい」などなど、様々な依頼がユニオンに寄せられている。そうした依頼に対してユニオンは、幅広い会員の中から事業に相応しい人材をピックアップし、プロジェクトチームを組んで積極的に地域に貢献していく予定である。

3, 地域社会の中で育つ学生、大学

1)地域の中で育つ学生
 「教室で講義を聴くよりバイトした方がよっぽど勉強になる」とは単に授業をよくサボる学生の逃げ口上でもあるのでそのまま認める事など到底できないが、実際に社会の中で働いてみることによって得られるリアルな体験や生きた知識を指して「勉強」と言うのならば、それは確かに講義では学べない部分であるから強ち間違った認識とは言えないかも知れない。人間が教育を受ける目的の一つが社会性を身につけることであるならば、大学の授業も教室で学ぶ基礎理論だけでなく、もっと地域社会と密接に関わって、その中で学生が実践力をつけていける仕組みを持ったものが多くあってよいのではないだろうか。もちろん基礎理論や基礎的な知識も大事である。しかしそうした理論や知識は実践に生かせて初めて役に立つ理論や知識となるだろうし、逆に実践を通して基礎の重要さが身にしみて理解できる場合も多分にあるだろう。おそらく冒頭の「街なかビーチバレー」に携わった学生達も、企画の立て方から交渉の進め方、人に伝わる話し方に至るまで、自分の力を見つめるとても良い機会になったことだろう。

2)地域の中で育つ大学
 大学も学生と全く同じことが言えるだろう。大学が大学の中だけで研究を展開しているばかりでちっとも実際の社会に生かされないのであれば、研究の意味がない。それが地方大学であればなおさらである。研究成果を地域に積極的に還元し、そこで得られた新たな知見、データをまた研究に生かす。そうやって初めて大学は地域の中にしっかり位置付くことができると考える。「地域に貢献する大学」などという高飛車な姿勢ではなく、むしろ「地域と協力し地域の中で育てられる大学」が望ましい姿勢であろう。福島大学スポーツユニオンはスポーツをキーワードとしたその一つの具体的試みでもある。