| 100m走は息をしない? |
川本 和久 |
| 100mを走るとき、息は止めて走るのですか?と質問されることがあります。答えは、「No」です。100mは無酸素性の運動と言われているため、「息を止めて走る」と考えがちですが、100m疾走中も呼吸はしているのです。 100m日本記録保持者の二瓶秀子選手のデータを見てみましょう。100mを走る間に10回程度呼吸をしていました。スタート直後に息をするのですが、次に息をするのがスタート6秒後です。その後、1秒に1回程度の頻度で呼吸をしていきます。その時の酸素を取り込んだ量(酸素摂取量)の総計は、224mlでした。空気中に占める酸素の体積比は約21%なので、100mを走る間に1000mlの空気を吸っていることになります。1回の酸素摂取量は、30〜40mlぐらいですが、フィニッシュが近づくと1回の呼吸が浅くなり、換気量が減っていました。 同時に疾走中の心拍数も測定してみました。スタート直後は、1分間あたり140拍ですが、6秒後から200拍に上がりました。フィニッシュするときは、220拍ありました。最高心拍数は、220から年齢を引いたくらいだと言われていますから、100m疾走の最後は、想像を超えるくらい心臓が急激に動います。急なダッシュが心臓に負担をかけて、危険だと言われる訳がわかりますね。 100m疾走中に摂取することのできる酸素の量では、当然100m疾走に必要な酸素量(酸素需要量)を賄うことができません。ですから酸素の借金(酸素借)をしながら走ることになります。以前は、100m疾走後にハアハアしながら酸素を取り込む量(酸素負債量)を測定し、酸素摂取量を引くことにより酸素借を求めていました。この方法だと、100mを走る間の酸素借は95%から99%程になります。100mを走るとき息をしないというのは、今までこの酸素借が、非常に大きいと考えていたからです。 しかし、最新の研究で、ゆっくり走っているときの酸素摂取量のデータを元に100mを全力で走るときの酸素需要量を推定する方法が確立されました。この方法では、100mの酸素借が約70%という結果を得ました。つまり、100m疾走で必要な酸素の30%(二瓶選手は224ml)は、走っている間に呼吸によって身体に取り込んでいるということです。 このことから、トレーニングの組み立て方が変わってきます。今までは、酸素借が95%以上と考えられていたため、それに見合った無酸素性パワーを高めることをトレーニングの主眼においてきました。ただ、酸素借が70%というと無酸素性パワーを高めるだけでは、だめだとわかります。こういった科学的なデータを元にしながら、トレーニング内容を試行錯誤して、実際の競技力向上につなげています。 |
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