狙いを絞る
白石 豊
 プロ野球のバッターたちは、「いいボールが来たら打とう」と考えて打席に入っているわけではありません。そんないい加減なスタンスでは、とても140km以上で近づいてくるボールをミートすることなどできないのです。
 それでは、どのような心構えで打席に入ればよいのでしょうか。それは「狙い球を絞る」ということです。この点について、大リーグで打率4割という驚異的な記録(1941年)を打ち立てたテッド・ウィリアムスはこう言っています。
 「ピッチャーがすばらしいスピードボールを持っていたら、ボールを見てからバットを振ろうかどうか決めるなんてできっこない。ボールがどこに来るかをあらかじめ予想していなければ、とてもミートできるもんじゃないよ。
 ただし空振りやうまく当たらなくても、決して自分のスイングを分析したり、変えたりしてはいけない。相手のピッチャーのボールに合わせてスイングを変えるなんていうのは、三流のライフル射撃の選手が、うまく的に当たらないからといって、ライフルをとっかえひっかえするのと同じさ。そんなことをすれば、自分のバッティングを崩してしまうだけだ。
空振りしたからといって、あんまりあれこれ考えることはない。空振りなんてものは、バットがボールの上か下かを、まあたいていは下なんだけど、通り過ぎただけなんだから。僕はバッティングっていうのは、すごくシンプルなものだと思っているよ」(拙訳、『野球のメンタルトレーニング』、大修館書店)。
 テッド・ウィリアムスのような大打者でも、いや彼だからこそ、結局、事ここに及んでは「一つに狙いを定めたら、あとはあれこれ考えない」ことだと言っているのです。
 このように集中というのは、ある一点に狙いを定めるということです。プレーする前に、どこに自分の注意の焦点を当てたらいいかを知っている選手は、高いパフォーマンスを発揮することができます。さらに注意を払うポイントが細かければ細かいほど、より高い集中力を得ることができます。
 こうした事例からも明らかなように、良い結果を残す選手は一瞬一瞬にやるべき目標(狙い)を明確に持っています。こうした瞬間ごとの到達目標のことを、メンタルトレーニングの世界では「実行目標=アクションプラン」と呼んでいます。
 スポーツに限らず、勉強や仕事でも高い集中力を保って大きな効果を挙げたいのであれば、はっきりしたアクションプランを持つ、つまり狙いを定めた行動が不可欠です。ただ「今日も一日頑張ろう」では、おそらく何も得ることはないでしょう。